線維筋痛症は、全身の痛みだけでなく、倦怠感、不眠、うつ症状など、非常に多彩な症状を伴う複雑な病気です。そのため、その治療も、単一の診療科や、一つの治療法だけで完結するものではありません。患者さん一人ひとりの症状に合わせて、様々な分野の専門家が連携し、多角的なアプローチで治療を進めていく「集学的治療」という考え方が、非常に重要になります。この集学的治療の中心となり、全体の司令塔の役割を果たすのが、主に「リウマチ科・膠原病内科」です。リウマチ専門医は、まず他の病気でないことを確認して正確な診断を下し、治療の全体像を設計します。そして、痛みをコントロールするための薬物療法の中心を担います。現在、線維筋痛症の治療薬として保険適用されている、神経の過剰な興奮を抑える薬(プレガバリン)や、脳内の痛みを抑える神経伝達物質を増やす薬(デュロキセチン、アミトリプチリンなど)を、患者さんの状態に合わせて処方します。しかし、薬物療法だけでは、この病気を乗り越えることは困難です。そこで、様々な専門家の力が必要になります。まず、頑固な痛みを和らげるために、「ペインクリニック」との連携が有効です。ペインクリニックでは、神経ブロック注射などを用いて、薬物療法とは異なるアプローチで痛みの悪循環を断ち切る手助けをしてくれます。次に、痛みや倦怠感によって低下した身体機能を維持・向上させるための「リハビリテーション科」の役割も重要です。理学療法士や作業療法士が、患者さんの体力に合わせて、無理のない範囲での運動プログラム(ストレッチ、有酸素運動、水中運動など)を指導します。適度な運動は、痛みを軽減させ、体力をつけ、気分を改善する効果があることが分かっています。さらに、痛みと共存していく中で生じる、不安や気分の落ち込み、不眠といった精神的な問題に対しては、「心療内科・精神科」や「臨床心理士」によるサポートが不可欠です。カウンセリングや、痛みに対する認知(考え方)を変えていく認知行動療法などを通じて、心の負担を軽減し、病気と前向きに向き合う力を育んでいきます。このように、リウマチ科をハブとして、様々な専門家がチームを組んで患者さんを支えること。それが、線維筋痛症という難治性の病気に対する、最も効果的な治療戦略なのです。