足底腱膜炎に代表される、かかとの痛み。その治療は、かつてはストレッチやインソール、痛み止めの注射といった保存療法が中心で、難治性のケースでは有効な手立てが少ないのが実情でした。しかし近年、このつらい痛みに対する治療法は、目覚ましい進歩を遂げています。整形外科医の立場から、かかとの痛みの最新治療の選択肢について解説します。まず、従来の保存療法で十分な効果が得られない難治性の足底腱膜炎に対して、非常に有効な選択肢として確立されたのが「体外衝撃波治療(ESWT)」です。これは、体の外から、痛みの原因となっている患部に、高出力の圧力波(衝撃波)を照射する治療法です。衝撃波の刺激によって、患部の血流が改善され、痛みを伝える神経の働きを麻痺させると同時に、組織の修復を促す成長因子が放出されることで、除痛効果と治癒促進効果が期待できます。治療は麻酔不要で、外来で15分程度で完了します。保険適用となっており、難治性の患者さんにとって、大きな希望となっています。さらに、近年、スポーツ選手のケガの治療などで注目を集めている「再生医療」も、かかとの痛みの治療に応用され始めています。その代表が「PRP(多血小板血漿)療法」です。これは、患者さん自身の血液を採取し、遠心分離機にかけて、組織の修復を促す成長因子が豊富に含まれる「血小板」を高濃度に濃縮した部分(PRP)を抽出します。そして、そのPRPを、傷んだ足底腱膜の患部に直接注射することで、自己治癒能力を最大限に引き出し、組織の修復を促す治療法です。まだ保険適用外の自由診療となりますが、自身の血液を用いるため安全性が高く、従来の治療で改善しなかった患者さんに対する新たな選択肢として期待されています。そして、これらの治療法を試しても、日常生活に著しい支障をきたすほどの痛みが改善しない、ごく一部のケースでは、最終手段として「手術」も考慮されます。内視鏡を用いて、硬くなった足底腱膜の一部を切離する手術などが行われます。このように、かかとの痛みの治療は、もはや「我慢するしかない」ものではなくなっています。様々な選択肢の中から、専門医と相談し、自分に合った最適な治療法を見つけていくことが可能な時代なのです。