線維筋痛症は、全身の広範囲にわたる慢性的な痛みを主な症状とする、原因不明の病気です。その痛みは、体の特定の部位にとどまらず、まるで移動するかのように、あるいは全身を覆うように現れます。患者さんによって痛みの表現は様々で、「体中がズキズキ、ジンジンと痛む」「筋肉や腱が引きつるように痛い」「ガラスの破片が体の中を駆け巡るような激痛」などと表現されます。この耐え難い痛みに加えて、線維筋痛症の患者さんを苦しめるのが、多彩な随伴症状です。最も代表的なのが、「強度の倦怠感・疲労感」です。いくら眠っても疲れが取れず、一日中、体が鉛のように重く、起き上がることさえ困難なこともあります。また、「睡眠障害」も非常に多く見られ、痛みで寝付けなかったり、夜中に何度も目が覚めたり、眠りが浅くて熟睡感が得られなかったりします。さらに、頭痛、めまい、しびれ、口や目の渇き、過敏性腸症候群(下痢や便秘)、膀胱炎様の症状、そして、集中力や記憶力が低下する「ブレインフォグ」と呼ばれる認知機能の障害も、多くの患者さんを悩ませます。これらの身体的な症状は、やがて精神的にも影響を及ぼし、「うつ病」や「不安障害」を合併することも少なくありません。では、なぜこのような症状が起こるのでしょうか。線維筋痛症の原因は、まだ完全には解明されていませんが、現在最も有力視されているのが、「脳の痛みを感じる機能の異常」、すなわち「中枢性疼痛感作」というメカニズムです。何らかのきっかけ(身体的な外傷、手術、ウイルス感染、あるいは精神的な強いストレスなど)で、脳や脊髄といった中枢神経系において、痛みを感じる神経回路が過敏になってしまうのです。その結果、通常であれば痛みとして感じられないような、ごく弱い刺激(服が肌に触れるなど)でも、脳が「激痛」として誤って認識してしまったり、痛みを抑えるための脳内システムがうまく機能しなくなったりすると考えられています。つまり、線維筋痛症は、けがや炎症による末梢の痛みではなく、「脳が作り出している痛み」なのです。この病気の複雑なメカニズムの理解が、新たな治療法の開発へと繋がることが期待されています。
線維筋痛症とはどんな病気?その原因と症状