「最近、仕事が忙しくて、ストレスが溜まっているせいか、めまいがする」。このように、めまいとストレスを結びつけて考える人は少なくありません。実際、精神的なストレスや、過労、睡眠不足といった身体的なストレスは、ぐるぐる回る回転性めまいを含む、様々なめまいの発症や悪化に、深く関わっていることが知られています。特に、ストレスが引き金となって発作を起こす代表的な病気が「メニエール病」です。メニエール病の本体は、内耳の内リンパ液が過剰に溜まる「内リンパ水腫」ですが、なぜ内リンパ液が増えてしまうのか、その明確な原因はまだ完全には解明されていません。しかし、その誘因として、ストレスが非常に大きな役割を果たしていると考えられています。ストレスを感じると、私たちの体では自律神経のバランスが乱れ、抗利尿ホルモンなどのホルモン分泌に異常が生じます。このホルモンバランスの乱れが、内耳の血流を悪化させたり、内リンパ液の吸収を妨げたりして、内リンパ水腫を引き起こすのではないか、という説が有力です。真面目で、几帳面、責任感の強い性格の人がメニエール病になりやすい、と言われるのも、そうした性格の人がストレスを溜め込みやすいためと考えられます。また、一度めまいの発作を経験すると、「また、あのつらいめまいが起きたらどうしよう」という強い「予期不安」が生まれます。この不安そのものが新たなストレスとなり、自律神経の乱れを助長し、次の発作を引き起こすという悪循環に陥ってしまうことも少なくありません。これは、メニエール病に限らず、良性発作性頭位めまい症(BPPV)など、他のめまい疾患でも見られる現象です。めまいがなかなか治らない、繰り返すという背景には、こうした心理的な要因が隠れていることがあるのです。したがって、めまいの治療においては、薬で症状を抑えるだけでなく、その背景にあるストレスと向き合うことが、根本的な解決のために不可欠となります。十分な睡眠をとる、リラックスできる時間を作る、趣味に没頭する、適度な運動をするなど、自分なりのストレス解消法を見つけること。そして、時にはカウンセリングなどを利用して、専門家の助けを借りることも、めまいの悪循環を断ち切るための有効な手段となるのです。