「首が痛くて回らない」。朝起きた子供がそう訴える時、大人は「寝違えたのかな?」と軽く考えがちです。しかし、子供、特に幼児から学童期にかけて見られるこの症状は、大人の単なる寝違え(筋違い)とは少し異なり、「環軸関節回旋位固定(かんじくかんせつかいせんいこてい)」という、特有の状態であることが少なくありません。この少し難しい名前の病態について知っておくことは、親が冷静に対応するために役立ちます。環軸関節とは、頭蓋骨を支える一番目の首の骨(頸椎)である「環椎」と、その下にある二番目の頸椎「軸椎」とで構成される関節のことです。この関節は、首を左右に回す(回旋させる)動きにおいて、非常に重要な役割を担っています。子供の環軸関節は、大人に比べて骨の形状が未熟で、関節を支える靭帯も緩やかです。そのため、些細なきっかけで、この関節が軽度の亜脱臼を起こし、首が傾いて回った状態でロックされてしまうことがあるのです。これが環軸関節回旋位固定です。そのきっかけは様々です。最も多いのは、ソファで不自然な姿勢のまま寝てしまった、などの「軽微な外傷や不自然な姿勢」です。また、意外に多いのが「風邪や扁桃炎、中耳炎といった上気道感染の後」に発症するケースです。喉や鼻の奥の炎症が、近くにある環軸関節の周囲にまで波及し、関節が不安定になることで起こると考えられています。そのため、数日前に風邪を引いていた、というエピソードは、診断の重要な手がかりになります。症状は、名前の通り、首が片方に傾いて回ったまま動かせなくなるのが特徴です(これを「斜頸」と言います)。痛みのため、反対側を向こうとしたり、うなずこうとしたりするのを非常に嫌がります。しかし、熱はなく、手足のしびれや麻痺といった神経症状を伴うことは、ほとんどありません。治療は、整形外科で頸椎カラーという固定具を装着し、安静を保つことが基本です。多くは数日から一、二週間で自然に元の位置に戻りますが、稀に治りにくい場合は、入院して牽引治療が必要になることもあります。子供の「寝違え」は、単なる筋肉の問題ではないかもしれない、という視点を持つことが大切です。