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ヘバーデン結節と関節リウマチ。似ているようで全く違う病気
指の関節が痛んだり、腫れたりする時、多くの人が「リウマチではないか」と心配になります。特に、ヘバーデン結節は、指の変形を伴うため、関節リウマチと混同されがちです。しかし、この二つの病気は、見た目の症状は似ていても、その原因も、進行の仕方も、そして何より治療法も全く異なります。両者の違いを正しく理解することは、適切な診療科を選び、正しい治療を受けるために不可欠です。まず、症状が現れる「場所」に違いがあります。ヘバーデン結節が、指の最も先端に近い「第一関節(DIP関節)」に好発するのに対し、関節リウマチは、指の付け根に近い「第二関節(PIP関節)」や「付け根の関節(MP関節)」、そして「手首の関節」に症状が出やすいのが特徴です。また、ヘバーデン結節は、複数の指に現れることはあっても、症状が左右非対称であることも少なくありません。一方、関節リウマチは「左右対称性」に関節炎が起こるのが典型です。次に、病気の「原因」が根本的に異なります。ヘバーデン結節は、加齢や指の使いすぎ、遺伝的要因などが関与し、関節の軟骨がすり減っていく「変形性関節症」の一種です。いわば、関節の機械的な摩耗や老化が原因です。対して、関節リウマチは、本来体を守るべき免疫システムが暴走し、自分自身の関節を攻撃してしまう「自己免疫疾患」です。関節を包む滑膜という組織に炎症が起こり、その炎症が骨や軟骨を破壊していきます。この原因の違いが、治療法の違いに直結します。ヘバーデン結節の治療は、痛みを和らげるための対症療法が中心です。痛み止めの内服薬や外用薬、テーピングによる固定、ステロイド注射などが行われます。一方、関節リウマチの治療は、異常な免疫反応そのものを抑え込むことが目的です。抗リウマチ薬や、生物学的製剤、JAK阻害薬といった専門的な薬剤を用いて、病気の進行を食い止め、関節破壊を防ぐことを目指します。もし、第一関節だけでなく、他の関節にも左右対称の腫れや痛み、そして朝の強いこわばりを感じる場合は、整形外科だけでなく、リウマチ科の受診を検討する必要があります。
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ヘバーデン結節と診断されたら。整形外科での主な治療法
指の第一関節の痛みで整形外科を受診し、「ヘバーデン結節ですね」と診断された時、多くの人が「この痛みや変形は治るのだろうか」と不安に思うでしょう。残念ながら、現在の医療では、一度すり減ってしまった軟骨を元に戻したり、変形してしまった骨を完全に修復したりする根本的な治療法は確立されていません。そのため、ヘバーデン結節の治療は、主に「痛みを和らげ、症状の悪化を防ぎ、指の機能をできるだけ維持する」ことを目的とした「保存療法」が中心となります。整形外科で行われる主な保存療法は、以下の通りです。まず、基本となるのが「安静と生活指導」です。指先に負担のかかる作業(瓶の蓋を開ける、重い荷物を持つ、長時間のパソコン作業など)をできるだけ避け、関節を休ませることが痛みの緩和に繋がります。医師や理学療法士から、指に負担をかけないような道具の使い方や、日常生活での工夫についてアドバイスを受けることもあります。次に、「薬物療法」です。痛みが強い場合には、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の飲み薬や、貼り薬、塗り薬などが処方されます。これにより、関節の炎症を抑え、痛みを和らげます。ただし、内服薬の長期使用は胃腸障害などの副作用のリスクもあるため、医師の指示に従って適切に使用することが重要です。また、「装具療法(テーピングや固定具)」も有効な手段です。痛む関節をテーピングで固定することで、関節の動きを制限し、外部からの刺激を減らして痛みを軽減させます。特に、仕事や家事でどうしても指を使わなければならない場合に有効です。市販のテーピングでも可能ですが、正しい巻き方について、一度専門家に指導してもらうと良いでしょう。これらの保存療法で痛みが改善しない場合には、「ステロイド注射」が検討されることもあります。炎症を起こしている関節内に、直接ステロイド薬を注射することで、強力に炎症を抑え、痛みを劇的に改善させる効果が期待できます。ただし、繰り返し注射を行うと、腱を傷めるリスクなどもあるため、頻繁には行えません。これらの保存療法を組み合わせても、痛みが全く改善せず、日常生活に大きな支障をきたすような場合には、最終手段として「手術」が選択されることもあります。
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リウマチ科だけじゃない。線維筋痛症の集学的治療
線維筋痛症は、全身の痛みだけでなく、倦怠感、不眠、うつ症状など、非常に多彩な症状を伴う複雑な病気です。そのため、その治療も、単一の診療科や、一つの治療法だけで完結するものではありません。患者さん一人ひとりの症状に合わせて、様々な分野の専門家が連携し、多角的なアプローチで治療を進めていく「集学的治療」という考え方が、非常に重要になります。この集学的治療の中心となり、全体の司令塔の役割を果たすのが、主に「リウマチ科・膠原病内科」です。リウマチ専門医は、まず他の病気でないことを確認して正確な診断を下し、治療の全体像を設計します。そして、痛みをコントロールするための薬物療法の中心を担います。現在、線維筋痛症の治療薬として保険適用されている、神経の過剰な興奮を抑える薬(プレガバリン)や、脳内の痛みを抑える神経伝達物質を増やす薬(デュロキセチン、アミトリプチリンなど)を、患者さんの状態に合わせて処方します。しかし、薬物療法だけでは、この病気を乗り越えることは困難です。そこで、様々な専門家の力が必要になります。まず、頑固な痛みを和らげるために、「ペインクリニック」との連携が有効です。ペインクリニックでは、神経ブロック注射などを用いて、薬物療法とは異なるアプローチで痛みの悪循環を断ち切る手助けをしてくれます。次に、痛みや倦怠感によって低下した身体機能を維持・向上させるための「リハビリテーション科」の役割も重要です。理学療法士や作業療法士が、患者さんの体力に合わせて、無理のない範囲での運動プログラム(ストレッチ、有酸素運動、水中運動など)を指導します。適度な運動は、痛みを軽減させ、体力をつけ、気分を改善する効果があることが分かっています。さらに、痛みと共存していく中で生じる、不安や気分の落ち込み、不眠といった精神的な問題に対しては、「心療内科・精神科」や「臨床心理士」によるサポートが不可欠です。カウンセリングや、痛みに対する認知(考え方)を変えていく認知行動療法などを通じて、心の負担を軽減し、病気と前向きに向き合う力を育んでいきます。このように、リウマチ科をハブとして、様々な専門家がチームを組んで患者さんを支えること。それが、線維筋痛症という難治性の病気に対する、最も効果的な治療戦略なのです。
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熱なしの首の痛み。子供の成長と骨格の特性
なぜ、子供は大人ではあまり見られない「環軸関節回旋位固定」のような、特有の首のトラブルを起こしやすいのでしょうか。その答えは、子供の成長過程における、骨格や靭帯の解剖学的な特性に隠されています。大人の首の骨(頸椎)は、一つひとつの骨が大きく、関節の噛み合わせも深く、強力な靭帯や筋肉によって、しっかりと安定しています。そのため、よほど大きな外力が加わらない限り、関節がずれたり、脱臼したりすることはありません。一方、子供、特に幼児期から学童期にかけての頸椎は、まだ発達の途上にあります。まず、骨そのものが、まだ軟骨成分を多く含んでおり、大人に比べて柔らかく、変形しやすい状態です。そして、環軸関節(一番目と二番目の頸椎の関節)の関節面は、大人に比べて傾斜が大きく、水平に近い形状をしています。これは、お皿の上にお皿が乗っているようなもので、構造的に滑りやすく、不安定なのです。さらに、この不安定な関節を支える「靭帯」も、大人に比べて非常に緩やかで、伸展性に富んでいます。子供の体が柔らかいのは、この靭帯の柔軟性のおかげでもありますが、それは同時に、関節が必要以上に動いてしまい、ずれやすいという弱点にも繋がります。これらの「骨の形状が未熟」「関節面が水平に近い」「靭帯が緩い」という三つの要素が、子供の頸椎を、大人とは比較にならないほど不安定な状態にしています。だからこそ、大人であれば何でもないような、ソファでうたた寝をする、でんぐり返しをするといった些細なきっかけや、風邪による喉の炎症が波及するだけで、環軸関節のバランスが崩れ、回旋位固定という状態を引き起こしてしまうのです。この子供特有の解剖学的な特徴は、成長と共に徐々に変化していきます。骨が成熟し、靭帯がしっかりしてくる思春期以降になると、環軸関節回旋位固定の発生頻度は、著しく減少します。つまり、この病態は、子供の体がまだ成長段階にあることの、一つの証しとも言えるのです。熱のない突然の首の痛みは、親を心配させますが、それは子供の未熟でデリケートな体の構造が原因で起こる、成長過程の一過性のトラブルであることが多い、ということを理解しておくと、少し冷静に状況を受け止めることができるかもしれません。