足底腱膜炎の診察でレントゲンを撮った際に、医師から「かかとの骨にトゲができていますね」と指摘されることがあります。この骨のトゲは、「踵骨棘(しょうこつきょく)」と呼ばれるものです。レントゲン写真で見ると、かかとの骨から、足の指先に向かって、まるで鳥のくちばしのように、鋭く骨が突き出しているのが確認できます。この骨のトゲが、痛みの直接的な原因だと思われがちですが、実は、その関係はもう少し複雑です。踵骨棘は、足底腱膜がかかとの骨に付着している部分に、長年にわたって過剰な牽引力(引っ張られる力)がかかり続けることで、骨がそのストレスに反応し、少しずつ異常な増殖を起こして形成されると考えられています。つまり、踵骨棘は、足底腱膜炎という「原因」によって生じた「結果」であることが多いのです。実際に、かかとの痛みが全くない人でも、レントゲンを撮ると、偶然、踵骨棘が見つかることは珍しくありません。また、踵骨棘がある人全員が、かかとに痛みを感じているわけでもありません。これらの事実から、現在では、「踵骨棘という骨のトゲそのものが、直接的に痛みを出しているわけではない」というのが、一般的な考え方となっています。痛みの主な原因は、あくまで足底腱膜の付着部に起こっている炎症や、微細な断裂にあるのです。ただし、踵骨棘の存在が、痛みを助長する一因となっている可能性はあります。大きな踵骨棘が、周囲のやわらかい組織や神経を刺激したり、足底腱膜の炎症をより起こしやすくしたりする、といった間接的な影響です。治療においても、踵骨棘を削り取るような手術が第一選択となることは、ほとんどありません。治療の基本は、あくまで足底腱膜炎に対する保存療法、つまり、ストレッチによる柔軟性の改善、インソールによる負荷の軽減、そして炎症を抑えるための薬物療法や物理療法が中心となります。レントゲンで骨のトゲが見つかると、多くの人はショックを受け、不安になるかもしれません。しかし、重要なのは、トゲの存在に一喜一憂するのではなく、その背景にある足底腱膜への負担をいかに減らしていくか、という点です。正しい知識を持ち、根本原因へのアプローチを続けることが、痛みの改善への最も確実な道です。