日本国内において、飼い犬による咬傷は日常的に報告されていますが、稀に発生する野良犬や、放浪中の犬による咬傷には、さらに高い警戒が必要です。かつてある地方都市で、散歩中の男性が突然現れた正体不明の犬に手を噛まれるという事案が発生しました。男性は「少し噛まれただけだ」と軽く考え、自宅で消毒だけをして放置していましたが、数日後に口が開けにくい、首の周りが突っ張るという異変を感じて病院へ駆け込みました。診断の結果は、破傷風でした。幸い、初期段階での治療が功を奏し一命を取り留めましたが、この事例は「犬に噛まれたら何科に行くべきか」という問いに対して、単なる外科的処置以上の意味を持たせています。野良犬や、予防接種の有無が確認できない犬に噛まれた場合、受診すべきはやはり外科、あるいは感染症内科です。特に破傷風は、土の中に住む菌が傷口から入り込み、強力な神経毒を出すことで全身の筋肉が硬直する、極めて致死率の高い病気です。現在の日本では、子供の頃の定期接種によって多くの人が免疫を持っていますが、中高年層では抗体価が低下していることが多いため、噛まれた直後の追加接種が強く推奨されます。また、海外で犬に噛まれた場合に最大のリスクとなる狂犬病についても忘れてはなりません。日本は現在狂犬病が発生していない数少ない国の一つですが、海外では依然として猛威を振るっています。もし旅行中に犬に噛まれたら、現地の医療機関で即座に暴露後ワクチンを接種しなければ、発症した場合は生存率がほぼゼロという恐ろしい事態を招きます。国内であっても、正体不明の犬に噛まれた際は、自治体の保健所への報告と同時に、外科を受診して破傷風のケアを受けることが鉄則です。医師は傷口の状態を診るだけでなく、患者の予防接種歴を遡り、今どのような追加対策が必要かを科学的に判断してくれます。自分の感覚で「大丈夫だ」と判断することは、目に見えない細菌や毒素に対してあまりにも無防備な賭けと言わざるを得ません。どんなに小さな噛み傷であっても、野良犬の牙が通った後には、目に見えない脅威が植え付けられている可能性があります。最悪の事態を想定して、最速で外科的処置を受けること。それが、自分の命を守るための絶対的なルールなのです。
野良犬に噛まれた事例から学ぶ破傷風のリスクと迅速な受診