がんの手術や放射線治療の後に発生することが多いリンパ浮腫は、初期段階で適切なケアを行わずに悪化させると、取り返しのつかない肉体的な変容を招くことがあります。リンパ液は老廃物やタンパク質を運ぶ役割を担っていますが、その流れが完全に滞り、組織の中にタンパク質が豊富な水分が溜まり続けると、周囲の組織が次第に線維化し始めます。線維化とは、柔らかかった組織が硬い結合組織に置き換わってしまうことで、一度こうなると、マッサージや挙上だけで水分を動かすことが極めて困難になります。浮腫が悪化してこの段階に達すると、四肢の太さは通常の数倍にまで膨れ上がり、皮膚の表面がイボ状に盛り上がったり、ゴツゴツとした質感に変わったりする「象皮症」と呼ばれる状態に至ります。象皮症まで進行すると、関節の可動域が著しく制限され、歩行や着替えといった日常の基本動作すらままならなくなります。そればかりか、肥大した部位の重みによって腰痛や膝の関節痛を引き起こし、全身の骨格バランスまで崩れてしまいます。精神的な苦痛も計り知れません。見た目の変化によって社会から孤立感を感じ、外出を避けるようになることで、心身ともに衰弱していくというケースも少なくありません。また、リンパの循環が悪い部位は、外部からの病原菌に対する防御力が極端に弱いため、先述した蜂窩織炎を頻繁に繰り返すようになります。炎症を繰り返すたびに組織の線維化はさらに加速し、浮腫は一段と強固なものになっていきます。リンパ浮腫の悪化は、単なる水分の停滞ではなく、組織そのものが作り変えられてしまう、元に戻ることの難しい不可逆的な変化なのです。だからこそ、手術後のわずかなむくみや違和感を見逃さず、専門のリンパ浮腫外来で弾性着衣による圧迫療法や医療徒手リンパドレナージを受けることが決定的に重要となります。初期であれば、適切な管理によって一生付き合っていくことが可能ですが、放置して「象の足」のようになってからでは、現代の医学をもってしても以前のような姿に戻すことは至難の業です。自分の体への無関心が、数年後の取り返しのつかない不自由を招く。その現実を重く受け止め、浮腫というサインに真摯に向き合う必要があります。