市民ランナーの佐藤さん(48歳)にとって、週末の早朝ランニングは、何にも代えがたい至福の時間だった。しかし、その幸せな習慣は、ある朝、突然の激痛によって脅かされることになった。ベッドから降りた最初の一歩、右足のかかとに、まるでガラス片が突き刺さったかのような、鋭い痛みが走ったのだ。その日は、走り始めると痛みが和らいだため、彼はあまり気にせず、いつものコースを走りきった。しかし、日を追うごとに、朝の痛みは強くなり、ランニング後にも、ズキズキとした鈍い痛みが残るようになった。整形外科での診断は「足底腱膜炎」。医師からは、「しばらくランニングは完全に休んで、ストレッチに専念してください」と、非情な宣告を受けた。「走れない」という現実は、彼にとって、想像以上に大きなストレスだった。仲間たちが大会で自己ベストを更新する報告を聞くたびに、焦りと嫉妬で胸が苦しくなった。彼は、医師の指示通りに、毎日欠かさず、ふくらはぎと足裏のストレッチを続けた。痛みが強い日は、アイシングも行った。しかし、数ヶ月経っても、症状は一進一退。少し良くなったかと思えば、少し無理をすると、また痛みがぶり返す。終わりが見えない痛みに、彼の心は折れかけていた。そんな彼を見かねて、理学療法士の友人が、彼の歩き方やランニングフォームをチェックしてくれた。そこで指摘されたのは、彼の「過剰回内(オーバープロネーション)」、つまり、着地時に足首が内側に倒れ込みすぎる癖だった。この癖が、足底腱膜に過剰なねじれのストレスをかけ、痛みが長引く原因となっているのではないか、というのだ。友人のアドバイスを受け、佐藤さんは、アーチサポート機能のしっかりした、安定性の高いランニングシューズに買い替えた。そして、理学療法士の指導のもと、足裏の筋肉を鍛えるトレーニングや、体幹を安定させるトレーニングにも取り組み始めた。地道な努力を続けること、さらに数ヶ月。ある朝、彼は、いつもの激痛がないことに気づいた。恐る恐る、ゆっくりと走り始めると、かかとに痛みはない。彼は、涙が出そうなほどの喜びを噛み締めながら、公園の緑の中を、一歩一歩、確かめるように走った。足底腱膜炎との長い闘いは、彼に、ただ走るだけではない、自分の体と向き合い、正しくケアすることの重要性を教えてくれたのだった。
あるランナーの苦悩。足底腱膜炎との長い闘い