自分の家の愛犬や、親戚の犬など、性格をよく知っている「身内の犬」に噛まれたとき、多くの人は病院へ行くべきかどうかで激しく葛藤します。「あの子が悪意を持ってやったわけじゃないし」「大げさにして飼い主さんや犬を責めることになったら申し訳ない」という心理的なブレーキがかかるからです。しかし、医学的な観点から言えば、相手がどんなに可愛がっている愛犬であっても、噛まれて皮膚が破れたのであれば、何科でも良いので速やかに受診すべきです。判断基準として最も重要なのは、「出血が止まったかどうか」や「痛みの強さ」ではありません。「犬の牙が皮膚を貫通したかどうか」の一点に尽きます。犬の唾液には、どんなに健康で清潔な犬であっても、人間にとっては有害な常在菌が数億個単位で存在しています。甘噛みのつもりが少し深く入ってしまった、あるいは遊んでいる最中に牙が当たったというだけでも、その小さな傷口から菌は侵入します。もし、噛まれた場所が赤く腫れてきたり、触ると熱を持っていたり、心臓の鼓動に合わせてズキズキと痛む場合は、すでに感染が始まっているサインです。この段階で病院、特に行きやすい外科や皮膚科を受診しないと、菌がリンパ管を伝わって全身に回り、リンパ管炎や敗血症といった深刻な事態を招く恐れがあります。また、自分の不注意で噛まれたから自業自得だ、と自分を責める必要もありません。医師は怪我の原因を問いますが、それは治療のために必要な情報収集であり、あなたや犬を裁くためではありません。むしろ、早めに受診して「抗生物質を飲んで洗浄したから、もう大丈夫」と太鼓判を押してもらう方が、その後も犬と良好な関係を続けるための精神的な安心材料になります。病院へ行く際は、犬の予防接種証明書のコピーや、最後に接種した日のメモを持っていくと、医師の判断を助けます。自分ひとりで抱え込み、ネットの怪しい情報を頼りに市販薬で様子を見るのは、感染症というリスクに対してあまりにも危険な行為です。愛犬を愛しているからこそ、その愛犬が原因で自分が大病を患うような不幸な事態を避ける。そのための賢明な判断として、速やかな医療機関への受診を選択してください。早期の処置こそが、体と心の両方の傷を最も早く癒やす方法なのです。