浮腫という症状を足や手の問題だけだと思っているなら、それは大きな誤解です。全身の浮腫が悪化し、血管から溢れ出した水分が行き場を失ったとき、その矛先が向けられる場所の一つが肺です。心臓や腎臓の機能が低下し、全身を巡る水分量がコントロール不能になると、肺の中にある小さな空気の袋である肺胞の中に水分が染み出してきます。これが「肺水腫」と呼ばれる状態で、まさに体の中で「溺れている」ような状況を作り出します。浮腫が悪化して肺水腫に至ると、どのような症状が現れるのでしょうか。初期の兆候としては、階段を上ったり少し急いで歩いたりしたときの息切れです。これは肺での酸素交換の効率が落ちている証拠です。さらに悪化すると、夜間に横になって寝ようとしたときに、激しい息苦しさに襲われるようになります。横たわることで下半身に溜まっていた浮腫が上半身へと移動し、肺への浸水が加速するためです。これを起坐呼吸と呼び、座っていないと息ができないという非常に危険な状態を示しています。また、喉が鳴るようなゼーゼーという喘鳴や、ピンク色の泡混じりの痰が出るようになると、それは肺胞の中が完全に水分で満たされているサインであり、一刻を争う緊急事態です。肺水腫は数分から数時間の単位で急激に悪化し、窒息死を招くこともある恐ろしい疾患です。足のむくみがひどいだけだと思っていた人が、ある日突然、激しい呼吸困難で救急搬送されるという事例は決して珍しくありません。足の浮腫は、肺水腫へと至る前段階の警告灯なのです。浮腫が悪化し、今まで楽にこなしていた動作が苦しくなったり、夜中に息苦しくて目が覚めるようになったりしたら、それは足のむくみが肺という生命の源を侵食し始めた証拠です。この段階で「疲れのせいだ」と見過ごすことは、自らの命を危険に晒すことと同じです。浮腫をコントロールすることは、単に足を細くすることではなく、肺を守り、呼吸という最も基本的な生命活動を維持するための戦いなのです。もし身近に足の浮腫がひどく、呼吸が浅くなっている高齢者などがいる場合は、本人が大丈夫だと言っても、すぐに医療機関に連れて行く決断を下さなければなりません。