浮腫という状態が長く続き、悪化の一途を辿ると、私たちの血管そのものの健康が著しく損なわれることになります。血管の最も内側には「血管内皮細胞」という非常に重要な細胞の層がありますが、慢性的な浮腫によって組織の圧力が高まると、この内皮細胞が物理的なストレスを受け続けます。通常、内皮細胞は血管のしなやかさを保ち、血液が固まるのを防ぐ物質を放出していますが、浮腫による圧迫や酸素不足によって機能不全に陥ると、血管は硬くなり、動脈硬化が急速に進行します。浮腫が悪化するということは、血管を包む環境が悪化し、血管そのものが「窒息」している状態に近いのです。こうなると、高血圧や脂質異常症といった他のリスク因子との相乗効果によって、心筋梗塞や脳卒中のリスクが格段に高まります。また、浮腫液の中にはさまざまな炎症物質が含まれており、これが長期間組織に留まることで、慢性的な微小炎症が全身で持続します。この慢性炎症は全身の老化を早めるだけでなく、インスリンの効きを悪くさせ、糖尿病の発症や悪化を招くことにも繋がります。つまり、足がむくんでいるという状態は、単に水が溜まっているのではなく、血管や全身の細胞が「炎症の海」に浸かっている状態なのです。さらに、浮腫が悪化して血管外への水分漏出が止まらなくなると、血管の中の血液はドロドロになり、血栓ができやすい環境が整います。これが深部静脈血栓症を引き起こし、運悪くその血栓が剥がれて心臓を経由し、脳の血管を詰めれば脳塞栓症という、一瞬にして自由を奪う病態を招きます。浮腫が悪化するというプロセスは、私たちの全身の物流インフラである血管網を、内側と外側の両方から破壊していく行為なのです。むくみが改善されないということは、血管の悲鳴が続いているということであり、それを解消するためのアクションを起こさない限り、全身の老化と病変の進行を食い止めることはできません。浮腫のコントロールは、見た目の美しさを保つためのものではなく、あなたの血管年齢を若く保ち、致命的な血管事故を防ぐための、最も基本的で重要なセルフケアなのです。
浮腫の悪化による血管内皮細胞の損傷と動脈硬化の加速